池田潔「ぼくの読書法は、本を読むことである」

 『第三の随筆』は池田潔著、昭和30年8月、読売新聞社発行。表紙カット鳥海青児。読売新書のひとつ。新書といっても現在のやうな新書版の大きさではない。ソフトカバーで気軽に読めるものといったところか。巻末広告のラインナップには「良識の泉 現代の心」とある。

 池田は明治30年生まれの慶応大学教授。巻頭写真は背広で戸を開けて、生垣の向かうからこちらを見つめるやうなポーズをとってゐる。撮影者丸山和美。

 帯には「謙虚な中にも烈しい抵抗を蔵する著者」と評されてゐる。大学時代の回顧、友情についての考察、マスコミ批判などは、今読んでも古さを感じさせない。

 「書痴来歴」は本好きの真骨頂といった趣の愛書ぶり。

 

ばか気た本だと思っても、読んだことを後悔する気持にはならない。さすがに二度と繰返しては読まないが、この世でのただ一回の出合いを後味悪く思い出すということはないのだ。つまらない本だな、お前は…見るからに駄本然とした面構えだし、つきあっている三時間、四時間も決して短いとは感じられなかった。お前のために利益をうけるということもなさそうだし、これから先、なにかにつけてお前を思い出す機会もなさそうである。だが、お前とぼく、ともにあったこの三時間、四時間は、少くともぼくにとっては心楽しいものであった。じゃあ、ありがとう、さようなら、達者にくらせ…。

 

と、つまらない駄本にも愛着を寄せる。「ぼくの読書法は、本を読むことである」「読む、読む、読む、それ以外のなにものでもないのだ」。新聞も地方紙も含めていくつも読む。活字を読まない人は早死にするといったくだりは性格の悪いところがにじみ出てゐる。

 子供のころの読書環境は充実してゐた。父宛てで未開封の寄贈雑誌を勝手に読んだりした。『実業之日本』『実業之世界』『日本及日本人』の誌名を挙げる。父とは池田成彬団琢磨のあとの三井合名理事。