戦時下でも地図を入手した師橋辰夫

 『こんな地図あんな地図』(日本放送出版協会編、昭和51年2月)は「趣味の世界」第6冊。堀淳一、松沢光雄、師橋辰夫、岩田豊樹、清水靖夫が地図収集や研究の魅力を語る。
 地図収集の情熱が伝はるのが師橋。師橋は日本地図資料協会会長で国税局勤務、通称「モロサン」「モロッコ」。日米開戦で一般への地図販売が禁止されてしまった。それでも師橋少年は地図収集を続けることができた。

少年は知り合いの軍人にたのんで本屋まで一緒に行って、買ってもらった。軍人ならいつでも買える。身分と目的を言えば、すぐ売ってくれたのだ。小さい子供がねだるのだから、軍人さんはすぐ引き受けてくれたそうだ。そうやって買っているうちに、もっとよい地図のあることがわかってくる。本と同じように、目録とかカタログとかがある。

 戦争真っ最中でも、軍人に頼めば地図が入手できた。戦後は、高円寺に住んで居たことが幸ひした。

中央線の沿線には、中級から高級の軍人の住まいが多かった。戦後は失職、そして将軍とか将校だった人たちが亡くなったりしたとき、その家族がみてもつまらないものは、本でもなんでも売ってしまう。売りに出されると、親切な古本屋なら教えてくれる。

 出物があると、店頭に並ぶ前に手に入れられた。
 師橋の仕事も役に立った。

 国税局というところは、人の秘密ばかり探って、とことんまで追いつめる仕事である。二〇年もやっていれば、そういう習性や執念がたくましくなるのは当然。ネライをつけたらどこまでも突っ込んでいくことが、地図の収集と研究に効果的だった。

 国税局の役人は他人と濃い付き合ひができないので、趣味に没頭する人が多いといふ。
 「合法であれ、非合法であれ」とか「日本ではまだ公表できないものもある」といふ記述、恐ろしいマニアぶりが感じられる。


 ・テレビの取材、駿河台には告知あったけれど高円寺は無通告だった。