皇道振興会と日本評論家協会

 『日米英決戦の展開』(日本評論家協会編)は、同会が主催した講演会をまとめたもの。発行所は元元書房(皇道振興会出版部)。装幀田代光。
 
 講演が行われたのは昭和16年12月9日夕。大詔渙発の翌日といふタイミングで、演題を変更した人も居た。講師は五人で、杉森孝次郎「対米英の必然」、室伏高信「対米英戦と国民の覚悟」、加田哲二「大東亜戦の経済」、津久井龍雄「事変完遂と日米戦争」、大島豊「日・米英決戦の展開」。国会等で、著者名で検索しても省略されてゐて出ず。

 日にちが日にちだけにもちろん高揚した気分も感じるけれども、意外に冷静な見方もしてゐる。

 ・米英の力を排除し、日本がこれに代つて新しい秩序を建設するといふからには、必ずや過去の米英のやり方といふものを、間違っても日本がこれを踏襲してはならないのであります(津久井)

 ・私は新聞やラジオで報道してゐるやうに米英を簡単に打倒するとは決して考へてゐない。我我は目先の一日や二日の戦勝に、ただ酔つてはならない。流石にイギリスやアメリカは大きな国であります。今日の戦争は或る意味でいふと、鋼鉄の戦争、石油の戦争といはれてをりまする(室伏)

 しかしこの出版元の皇道振興会とはなんであらうか。巻頭の主義綱領によれば昭和6年10月創立。巻末の顧問芳名には21人の名士軍人が。


 ・公爵一条実孝、前侯爵久我常通、陸軍大将男爵荒木貞夫、陸軍大将岸本鹿太郎、陸軍大将森岡守成、海軍大将竹下勇、宮中顧問官海軍中将子爵小笠原長生、頭山満、陸軍中将筑紫熊七、伯爵大原重明、男爵井田磐楠、男爵井上清純、貴族院議員永田秀次郎東洋大学教授高島平三郎、陸軍中将和田亀治、陸軍中将松井庫之助、貴族院議員丸山鶴吉、陸軍中将勝野正魚、陸軍中将鈴木一馬、子爵北小路資武、国教学館主田中治吾平。
 名義だけだらうけれども中々の人たち。名誉会長に陸軍中将男爵の菊池武夫、会長に生田目経徳、理事長に陸軍中佐仙石信経。生田目会長の肩書きが空欄になってゐるのが不思議だ。

 日本評論家協会については特に説明がなく、各講演の初めに杉森が会長、室伏・大島が常任委員、津久井が幹事とあるのみ。奥付では大島が代表者になってゐる。
 戦後にできたものは無関係のやう。