現代日本右翼の知的水準

 純真朴訥の青年愛国者

 昨年、例の安保闘争で、左右両翼が街頭で激突した時のことである。ある右翼団体から、街頭デモに駆り出された一青年が、運悪く警視庁に捕えられて、その闘争参加の理由や思想根拠の問題等について、型通りの尋問を受けたのである。
 ところが、その青年は、所属団体や、指導者から、まだそうした学問的、理論的な指導を受けていなかったので、安保改定に対する情熱は、もちろん胸いっぱいにもってはいたものの、警察官のそうした尋問に応答するための適当な理論とことばは、まだ知らなかった。そこで、その青年は、窮余の知恵をしぼって、やっと次のように答えたと云うのである。
 “安保改定に反対する奴等は、みな共産主義者か、そのひもつきの国賊どもだ。俺は日本人として、その国賊どもを退治するために街頭デモに参加したのだ”
 そこで、これを聞いた警察官が更に突込で、「共産主義者はどうして国賊なのか?」
 と追及すると、この朴訥な自称右翼青年は、もうそれ以上答える言葉を知らず、警察官を苦笑させたというのである。
 勿論、これはつくり話ではない。私はこれをある正確な筋から伝えきいた時、この純一無雑な青年を笑うより、むしろこの青年を通して、現代日本右翼の知的水準の低さを反省し、慙愧の念に胸を打たれたのである。何故ならこれは明白に、答え得なかった青年の罪なのではなく、むしろ教えなかった右翼陣営そのものの罪だからである。(p6)

 
 公平にこちらも。『新しい世代の天皇論』(川口忠篤、漁樵窟刊行、昭和36年10月)。同年3月にのよりんの帝都日日新聞に連載したものを自費出版したもの。川口は日本主義に転向する前、大杉栄の北海道監獄の解放運動に参加。なぜか十四人中最も重い懲役四年に処された。そこから大本の伝手で満洲に渡ってゐる。