袁世凱を狙撃した白水幸三郎

 『脱狼群』(鈴木長城、富士書房、昭和28年2月)の著者は、肩書に元国府軍特務少将とある。鈴木は終戦後の混乱から邦人を守るため、中共側に立って協力。しかし叛乱を起こして、次に国民党系の地下工作員として活躍した。満洲吉林を舞台に日・共・国・鮮の勢力が協力と背信を繰り返して眼が廻る。
 そんななか、長春妙心寺で出会ったのが白水幸三郎翁。
終戦後は孤児院を開いて救済に当たってゐたが、それまでの経歴が波瀾万丈。
父が頭山翁の恩師ださうで、明治45年に頭山翁・中野正剛犬養毅・寺尾亨と上海に渡り、孫文蒋介石らと袁世凱打倒を論じた大陸浪人だといふ。
 大陸に残った白水は袁軍の兵士募集に合格し、主計中尉にまでなった。袁を拳銃で狙撃したが遠かったので失敗、拷問では肋骨を折られた。袁を撃った日本人は小山豊太郎だけでなかったのか。
 米英相手の戦争には勝算なしとする意見書を東條首相に送ったりもした。
 また、日支和平では、頭山翁を担ぎ出す仲介もした。

昭和十八年の夏、翁は空路満洲より東京に飛来する折、長春出発の時、翁の許に出入りしていた満洲皇帝侍従長の某中将が翁に向い、頭山翁に重慶に出掛けて貰い、蒋総統との間に中国方面に於ける何等かの時態収拾策を見出す事の必要性を力説して、極力、翁に頭山翁の出馬を要求してくれる様に懇願したそうだが、東京に着くと直ちに頭山翁を訪れ、堂々と所信を披瀝した

 頭山翁は乗り気だったが実現しなかった。
 頭山翁を担ぎ出す和平策は過去に東久邇宮稔彦王の方面からもあった。この満洲ルートは皇帝から出てきたのかどうか。