式場隆三郎「神経衰弱は敵性病である」

 『政界往来』の昭和18年11月号読む。p63に式場隆三郎が「神経病を嗤ふ」を書いてゐる。短いものだが、なかなか意表を突くことを書いてゐる。冒頭から、
 

戦争と精神病、神経病の問題は世人の予想に反してゐる。私は逢ふ人ごとに戦争になつて狂人が激増したでせう、神経衰弱やヒステリーが殖えたでせう、ときかれる。しかし事実はむしろ減つてゐる。

 といふ。7月に全国精神病院長会議が厚生省で開催されたが、東大の内村[祐之]教授は支那事変から外来患者が減り、大東亜戦争が起こってからは激減したといふ。東大以外からも次々に同じ報告がなされ、式場自身も同じ感想を持った。

戦争といふと強力な刺激だから狂人が増えさうなものだがさうではない。軽症な者は治る。重症な者は症状が軽くなる。
 そもそも神経衰弱はアメリカで始まった文明中毒病で、日本には大正から昭和初期に流入したといふ。
 

 極言すれば神経衰弱は敵性病である。それが大東亜戦争によつて、排撃されたことは日本民族にとつて喜ばしいことである。
 神経衰弱は欧米でもさう古くからあつたのではない。大体、一八八〇年代に始まった文明中毒症と見られてゐる。それが欧米文化の日本移入にくつついて来たのであつた。

 「この決戦下にあつて、神経衰弱などにかゝつてゐては恥しい」「大したことでもない神経症状でぶつぶついつてゐられなくなつた」「いまや神経衰弱を退治するには絶好のときが来たのだ」。

 欝の人も戦争になったら治るのであらうか。