指圧を奨める高須芳次郎

 現在は、日本主義時代である。この時代に当り、医学もこれに順応して、その内容を変革しなければならない点が多々ある。(略)
 日本人は、明治維新以来西洋のものを舶来舶来といつて何んでも崇拝した。それで西洋医者が物々しく聴診器をあてて診察するが、実際は中々わからないのである。それでも一般の人は信用してゐるやうだが、私は信用できない。
 かういふ西洋流の部分的な治療を受けてゐれば、一時は治つたやうに思はれても、また再発する虞れがある。しかし私の多年の経験では指圧療法などは部分的治療でなく、全身的療法によつて治療するため、一度治れば再発の心配はない。(略)
 一代の名優故市川左団次は、私と同郷のものであるが、彼は小便の出ない病気で死んだ。つまり疲労毒素と血が結滞して腎臓の働きを妨げ、それが延長して来た結果に外ならない。若し左団次が指圧療法の偉功を知つてゐたなら治つてゐたものと思ふ。しかしこれは左団次だけでなく、かういふ医学的知識に乏しいものが、世の中には少くないと思ふ。この万病一元の真理を知り、全体的療法を信ずるものならば、いくらでも病気を治す方法はあると信ずる。
 苦い薬を飲む必要もなく、また痛い注射をしなくても、外に治病療法があるとするならば、われわれはそれを研究し、かつそれに対する正しい知識をもつて、自己の生命を守ることを忘れてはならない。

 高須芳次郎「万病一元と綜合療法」『療海』(日本治療師会出版部発行、昭和18年1月号、第七巻第一号)より。日本主義者の面目躍如といったところ。既に日本指圧学院の広告で、浪越徳治郎が「指圧界の最高権威!」と謳はれてゐる。他にも指圧を掲げた広告が幾つも載ってゐる。