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朝日に岩波書店の広告。『『諸君!』『正論』の研究 保守言論はどう変容してきたか』上丸洋一、2940円。広告文に「約四〇年前、「左翼」運動全盛の時代に創刊された『諸君!』『正論』。従来の総合雑誌とは異なる切り口で「保守」に言葉を与えた両誌は、何を主張し、日本の言論空間をどのように塗り替えたか。論調の変遷を実証的に分析した画期的労作」とある。

 惹句には「見すごされてきた戦後思想状況の一断面」。さうですか、見すごされてきましたか。

 ちょっと確かめてみようと自然な演技、ぢゃなかった、静かなブーム…でもなかった、淡い期待を抱いて岩波ブックセンター信山社へ。やはり『正論』は置いてありません。なるほど岩波文化人様も見すごしてきたわけです。それを発見したのですから、画期的なわけです。


 休刊するまで『諸君!』は置いてあり、『SAPIO』は今もあるので、保守系の雑誌を置かないわけではないやうです。出版社で判断してゐるのでせうか。

 なんにせよもう「発見」されたのですから、今後はきっと『正論』も置いていただけることと思ひます。

 朝日新聞糾弾は戦前からありましたが、なかなか岩波批判はありません。それだけに伊澤甲子麿氏の岩波嫌ひの文は干天の慈雨でした。

 『諸君!』『正論』でさへ見すごされてきたのなら、『自由』も『月曜評論』も『日本週報』も都市伝説にさへならないのではあるまいか。しかしさういふ地下水こそ地上に噴出したならば如何に清冽なことでせう。