全人類は悉く読め

『東方之星』(昭和3年10月発行、第三巻第五号、東方文学社)より。

 「オリエンタリズムの先駆」と謳った高須芳次郎の個人誌。月刊ではなく年四回発行で、この号は秋季号。その中に、『日本時代』創刊の囲み記事がある。

 

雑誌『日本時代』生る

 思想混乱、悪化の甚だしき今日、一代の暗黒を照破する高級思想雑誌『日本時代』が生まれた。これによつて今迄思想上に迷ふた人々は始めて適切な指導者を得て人生行路を正しく歩み、すがすがしい新文明の曙光によみがえることが出来る。思想上真に画期的の雑誌だ。全国民は悉く読め、全人類は悉く読め。(一部定価三〇、)


創刊の宣言にしても、「全人類は悉く読め」は気宇壮大だ。

 ちなみにその発行母体、新東方協会創立発会式の反響が紹介されている。同協会と東方文学社は同じ住所の東京市牛込区南榎町57。

 式は昭和3年8月18日午後五時半、日本橋室町三共ビル内エンプレスにて。都新聞では発起人は北原白秋、北署吉、野口米次郎、大川周明笹川臨風中里介山武田豊四郎、高須。報知新聞では参集者として大川、中里、高須、陶山務、村松梢風、橋田東声、津田光造、田中貢太郎、北、武田ら三十余名。日本新聞では会する者中里、田中、高須、大槻憲二、小島徳弥、橋田、大川、藤井真澄、武田、北、津田、井田秀明、村松、若宮卯之助、綾川武治、小佐井清平ら数十人。読売新聞では発起者として北原、北、野口、大川、笹川、高須ら十数氏。
 天業民報では河野桐谷が社説で解説した。
 
 都、読売が事前記事で、報知と日本は実際に取材に来たやう。日本によれば武田氏は

 

或点に於て日本人が非常に独創的であり、過去に於て然るが如く、将来に於ても亦然るべく、例へば、仏教に於ても、釈迦よりもむしろ聖徳太子の如きお方を先づ第一とすべきであると、得意の雄弁の裡に諧謔を交ぜて述べ喝采を博した


綾川氏は

従来白人は有色人種を目して人間と動物との間に置いた、例へばアメリカに於ける黒人問題の如きそれである然るに日露戦に於ては日本の実力を認めたが、まだまだ白人に対抗して行く上には異常なる努力に俟たねばならぬと述べ大いに鼓舞するところがあつた。

 陣容を見てもわかるが、日本主義と言っても日本趣味、江戸趣味の面もある。

 

これまで芸術と云へば必ず外国の翻訳物に限られたものが愈々純日本主義に立脚する芸術運動が各方面の有力者を網羅して始まつた(日本)

 

同会は在来の極右傾団体とはその性質を異にし、独自の立場から是々非々主義を以て進み、マルキシズムアナキズムに対しても、その長所はこれを認容するの雅量を持し、公正に日本主義を宣揚せんとするのである(報知)

といふ通りだと思ふ。

裏表紙一面には『日本時代』11月月号が載ってゐて、これが創刊号かと思はれる。上掲の発起人、参集者にない執筆者として斎藤茂吉、白鳥省吾、長田秀雄、翁久允、米田華舡、山本勇夫、谷口邦憲、川路柳虹、三井甲之、寺田弥吉、日高浩の名がある。