目的といふ目的のないのが、即ち亦此の会の目的

まだ続き。四宮憲章は国学者漢詩人。皇明会を主宰。写真で見ると怖さうな面構へに、新成人の女性がよく襟に巻くあれのやうな、ふはふはしたやうな立派な髯を生やしてゐる。
 顔に似合はぬ美声で記者に説明するには、髯でさへあれば疎密長短職業年齢を問はず以髯会に入会できる。そして「一体髯のある人は比較的悪いことをしない、そして何か一芸を持ってゐる」と言ふ。以髯会規定

・本会は同徳相応ずる自然の妙趣に出たもので、別にこれといふ目的はない。目的といふ目的のないのが、即ち亦此の会の目的でもある


 結成のきっかけは昭和10年10月初め、支那から呂美蓀てふ女流詩人が来日して、星ヶ丘茶寮で雅会を催し記念撮影をした。その時、長髯の持ち主だといふので四宮と国分青突が女史の左右に座った。それで髯話で大いに盛り上がった故である。翌年4月5日に目黒雅叙園で発会式を行った。集まったのは頭山翁、南拝山、土方寧博士、大竹貫一、今井五介、山口正造…。
 最長は加藤直次郎の五尺二寸二分(約157㌢)。当時世界第二位で、一位はアメリノースカロライナ州のプリンクリ老人。加藤は日清戦争の折、髯で馬賊頭目を帰順させて勲七等功六級を賜った。
 記事中にもあるやうに、以前は有髯者が紙幣に描かれてゐたが、今は野口英世だけになった。