本を売って遊ぶ金にした千家紀彦

 『背徳の家の子 わが非行体験を告白する』は千家紀彦著、番町書房発行、昭和38年10月発行。ポイントブックスといふ新書シリーズの一冊。カバーデザインは芦立ゆうし。

 副題の通り、著者が自らの非行を告白するものだが、主に青少年期まで。刑務所に入るなどの成人後の出来事は軽く触れる程度。なぜ非行をするやうになったのか、生まれた古い家系のこと、複雑な家庭環境などが赤裸々に綴られてゐる。父による日常的な折檻、非行のきっかけとなるその醜行などを描き、告白だけでなく告発の書でもある。裏表紙の写真で眼帯をしてゐるが、これは虐待ではなく別の理由によるもの。

 カバー袖に著者の和歌6首がある。これは本文にはない。そのうちの一首。

愛(かな)しみと憎しみとあり「名門」と人のいふなる無慚の家に

 背徳の家、無慚の家といふ。先祖についても「とりたてて文武に功績があったわけではありません」、田舎だから戦乱に巻き込まれずに永らへたのだと低く評価する。屋敷の広さについてはこんな逸話がある。下男が朝、雨戸を開けて行って全部終はると今度は閉めて行く。それだけで夜になってしまふといふ。これは以前ほかの本で紹介されて知ってゐたが、この家のことだったのか。

 異常な家庭環境で、実母の名前を学校の名簿から知ったり、同居してゐる父と継母が直接話さずに人を介して意思疎通を図ったりする。戦後に独り立ちして新聞の売り子をしたり新聞販売店でスタンドのビラ書きを手伝ったりと苦労するが、その頃の方が生き生きとしてゐる。

 中学生時代の非行は授業のサボり、喫煙、喫茶店通ひで、小遣ひが足りない。そこで本を売って遊ぶ金を得る場面が出てくる。父に買ってもらったジャン・ジョレスの『フランス大革命史』は全8巻。六本木の古本屋に売るときに外箱だけ残して本棚に並べておいたので、しばらく露見しなかった。父の『明治大正文学全集』全60冊も少しづつ処分したといふ。いい時代だ。今だと文学全集はなかなか買ひ取ってもらへない。

 

・『千家尊福と出雲信仰』岡本雅享著、ちくま新書、読む。尊福は江戸時代末期の生まれだが、本書冒頭は意外にも古代東国から始まる。出雲系の神社が古くから分布し、このやうな背景がのちの尊福の活躍にもつながることが示されてゆく。尊福個人の超人的・精力的な活動も描き、立体的で深みのある内容になってゐる。系図があると便利だった。