頭山翁への荷物を運んだ富永直樹

 『彫琢抄』は富永直樹著、発行者は息子の富永良太、平成19年4月発行。装幀片庭瑞穂。

 富永は本名、良雄。大正2年5月、長崎県生まれ。平成184月没。彫刻家として多数の像を作品を制作した。正田英三郎田中角栄福田赳夫佐久間象山、グラバーなどを作った。一方、工業デザイナーとしても活躍。4号電話機は全国に普及した。

 本書は没後に発見された自叙伝で、生い立ちから制作の苦労、作品の解説などが随想的につづられてゐる。東京美術学校卒業後、上海でぶらぶらしてゐた頃の一コマに頭山翁が出てくる。

いよいよ日本に帰るというときに、ある軍の方に呼ばれたので行ってみると、「頭山満さん宛のこの鞄を長崎の税関長に渡してくれ」と頼まれた。小さな黒の鞄だったが、それを持って帰った。

 富永は頭山が何者かも知らずにゐたほど政治に疎かったといふ。それにしてもなぜ軍関係者は自分たちで鞄を運ばずに、無関係の富永に運ばせたのだらう。上海での住居は陸軍に関係したところで、ボーイと女中もゐた静かなところだったといふ。

 和代夫人の家系がとても古い。小谷津家の先祖は物部守屋で、葉山の森戸神社、伏見稲荷、鎌倉(鶴岡?)八幡宮などにも人材を輩出したといふ。

 

・高場乱の銅像建立。クラウドファンディングにいろんなコースがある。男装の女性が牛に座ってゐるところといふのは前例がないだらう。芸術的な方面からの評判を聞いてみたい。