日蓮神社の建設を提唱した塩津淳一

 『忠聖 日蓮傳』は塩津淳一著、大東亜立正協会発行、昭和19年4月発行。原稿自体は昭和18年8月ころまとめられたものか。

 本書は日蓮の伝記だが、宗教家の枠を超えた勤王家としての日蓮に焦点を当てたもの。インド式の俗世を避ける仏教ではなく、非常時に自ら進んで戦ふ獅子の仏教を奉じたものとしてゐる。

他宗派を非難するところでは、念仏門は極楽世界を盲信する共産主義だと指摘する。

汗一粒も流さないで、どんな悪人でも、否、その悪人こそ、往生の正機だと説いてゐる。これでは全く因果の理法を無視したもので、汗みづくになつて正直に働くのは馬鹿者だといふやうにも聞える。

 大東亜立正協会では、実行計画として9つの項目を挙げる。その中にもあるのが、日蓮神社の建設。楠木正成加藤清正水戸光圀東郷平八郎、彼ら日蓮主義者は神として神社に祀られてゐる。しかし日蓮本人が祀られてゐないのは遺憾に堪へない。

 日蓮神社建設の議、といふ文章もある。

一億一心といふふうな常識では最う追ひ付かない。その一億一心の全国民が、一人残らず「超人」化することでなければならぬ。それほど、時局の要求は重大である。この要求に応へる一つの成案として、我等は茲に日蓮神社並に立正道場の建設を提唱するものである。

 すでに賛同者もゐて、伊豆・伊東に土地も用意できるやうに書かれてゐる。

 実行計画はほかに、虚弱児童の錬成、不良少年の薫化、教科書改善運動、海外殉国者供養塔建設など幅広い。虚弱児童については、すでに小湊学園で収容を始めてゐるといふ。