軍国漫画のファンだった安田徳太郎

続き。『児童』の軍事熱特集。

 工学士・日本大学教授の古賀邦夫は「少年軍事小説と理学思想」を書いてゐる。子供の頃は江見水蔭押川春浪の小説を夢中になって読んでゐた。軍事小説は場合によっては有益になる。しかし、子供に有害な場合もある。そこで平田晋策の「昭和遊撃隊」を取り上げて、苦言を呈してゐる。

 作品のなかで、武田工学博士は潜水艦にもなり、飛行機にもなる神変不可思議の新兵器で敵機を打ち砕く。敵の近代的な要塞地帯はたやすく陥落する。しかし実際の研究といふのはもっと地道なもの。もっと真面目な武器などをうまく小説に取り入れてほしいといふ。「子供の頭をあまりに空想に走らせて戴きたくない」。

 作家の桜井忠温は「子供の戦争熱」で、フランスで見た、子供の戦争ごっこを紹介。実に整然と作戦を立てて敵情を視察し、持ち場につく。

 日本の子供の戦争遊戯は、何の目標も目的もあるわけではない。旗をふりかざし、竹の棒を持ち、追ひに追はれてといふだけのものである。

 医師で歴史家の安田徳太郎は「子供の軍国漫画」を語る。随筆風で面白い。男女男のわが子たちに日本昔噺やグリム童話イソップ童話、赤い鳥式の文学童話を与へてやったが関心を示さない。「そろひもそろつて下等な本が好きなのである」。軍国絵本や漫画ばかり自分たちで買ってくる。女の子も武者修行や一休和尚、冒険漫画のファン。安田も子供たちの影響で、軍国漫画のファンになった。

 安田の子供のころは日露戦争前後で、古い錦絵風の武者絵があったがそれは残忍なものだった。それが現在ののらくろ式の漫画といふのは残忍性が非常に少なく、朗らかだ。文部省式に反して、下っ端が上官をやり込めたりする。

 なぜさういふ変化が起こったかと考へ、アメリカ映画の影響を挙げる。ミッキーマウスやベティーさん、ターザン、キングコング、大人が見ても面白い。子供にはより一層深い感じを与へるだらうといふ。のらくろミッキーマウスの日本化したものだと指摘する。

 先の古賀や桜井は現状を憂えてゐたが、安田は軍国漫画の人気の理由を分析し評価する。「私は子供の軍国漫画から多くのものを学んだ」。

 

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