乾政彦「七には強く何物かを暗示するらしい力がある」

 


『七を貫く』は乾政彦著、乾法律事務所発行。昭和11年11月発行、12年1月再版。表紙には磨磋秘庫叢書ともある。マサヒコと読むのだらう。

 乾はある日、友人の江橋活郎から『辯護士道の七燈』といふ本を贈られた。英国判事のエドアード・パリーが書いたもので、江橋と江木衷が共訳した。乾は読み終はったあと、ある感覚に囚はれた。七といふ数字に、一種の不思議な魅惑を感じた。

 

この数字には、何だか神秘的な、強く何物かを暗示するらしい力があるような気がしてならず、古来、この数字に付纏つて来た、さまざまの因縁や、伝説などについて、それからそれへと、取留もなく、冥想の翼を拡げて見たまでのことである。

 

 本書は乾が古今東西、七にまつはる物事を収集した記録。七と時空に始まり、七と地理、七と物理、七と動物、と七づくし。乾が弁護士だからか、七と法律の中で更に七と憲法、七と皇室典範…に分かれてゐる。七草、ななほしてんたう虫、各地の七不思議、七生報国七本槍七卿落ち…などなど、雑然と載ってゐる。中には、こじつけのやうなものもある。六法全書のうち、破産法は独立させて七法全書にすべきではないかといふ。江藤新平の佐賀の役は明治七年。西郷隆盛と七時間密談した。入獄したのが四月七日。それから七日目に梟首された。

 最後には、七の魅力の淵源を考察してゐる。

 

つらつら自己の心理を内省して見るに、ただ、わけもなく七といふ数に魅せられ、惹きつけられるといつたような心理的傾向があるようには到底思はれぬ。

 

 七の魅力の起源は人類に内在するものではなく、外部に存在すると結論付け、惑星の数や月の満ち欠けの日数などを検討してゐる。これだけ七にこだはってゐるのに、乾自身はわけもなく惹き付けられてゐるといふ自覚がないらしい。最初のほうでは「不思議な魅惑」を感じたといってゐるのだが。

 

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・前田利鎌の評伝。父の前田案山子は頭山翁らと交遊があった。利鎌は夏目漱石最後の弟子で宗教哲学者。大本にも紙数を割いてゐる。中に中野興之助で、おきのすけ、とルビを振ってゐる。中野與之助なのに何を見てルビふったのだらう。