小室直樹「それならお前のところの総長を真先に殺せ」

 戸松慶議の団体はいくつかあり、1つは「国乃礎」。『神道の手引書』を暫定的に「教典」として、日本全国の市町村、神社に各一人の理解者を発見し、神道研究会をつくる。「日本協会」は頭脳集団で組織し、政府や政党を動かす実力組織だといふ。もう一つが「中央管理調整機構」。

検閲局―世紀末野蛮化の原因と根となる害悪害毒不道徳破倫性の存在を剪除根絶する国家改造新聞を発刊

 などを謳ふ。
 『次代』は国乃礎本部と日本協会本部を発行所とする月刊誌。平成5年6月号には小室直樹の講演が載ってゐる。日の丸と日本協会の旗を前に立つ写真もある。演題は「世界野蛮化に於ける日本の進路と方針」。野蛮化といふのが先の管理局の活動と重なってゐる。
 世界情勢を論じた講演ののちに、参加者との質疑応答もあった。小室の関心と過激さが率直に表れてゐる。知人が明治大学の学生で、三島由紀夫を尊敬してゐるといふ。

自分の良いところは人を殺す度胸があることだが、誰を殺したらいいかわからないので悩んでいるというのです。

 これに対する小室の答へ。

それならお前のところの総長を真先に殺せ、と言ったんです。どこがいけないんです、と訊くから「明治大学という名前が悪い。僭越至極じゃないか」と答えました。(略)明治大学がどんな立派な大学か知らんが、一大学ではないか、名に年号を取るとは何事か、と言ってやりました。

 寺でも年号の名前を付けるのは本来不敬である、昔はさういふことをしっかり教へる学問をしてゐたのに、と憤慨する。悩みもその答へも尋常でない。
 ちなみに頭山翁のことを、白虹貫日の故事を知ってゐて朝日新聞を糾弾した、学問があったと褒めてゐる。記事では白球天を貫く、と誤記。
 皇国史観にもさまざまあったといふ平泉門下らしい指摘もある。学校の校庭に軍神の銅像はないが二宮尊徳の像はある、これはなぜか、と論じるところなども、身近な話題から展開して面白い。