暉峻義等「これは明瞭な事実であります」

 1月は正月休みのあとに必ず3連休がある。優しい。
 講演の友社の『講演の友』昭和14年6月15日号は第155号。5月2日に開催された銃後健康報国大講演の様子を収める。主催が厚生省・東京市東京府・警視庁のちゃんとした大会。
 「長期建設下の体力向上」について講演したのは日本労働科学研究所暉峻義等所長。非常時にこそ休養が大切だと語り掛ける。

長い間の科学的研究の結果によりますと、長過ぎる労働時間は生産力を拡充する方途ではありません。これは明瞭な事実であります。明瞭な産業界の原理であります。

国家は長い勤労時間によつて使ひ古された不健康な、意気銷沈した人間によつては維持されないのであります。盛んなる国家、興隆する国家は、健康にして意気旺盛なる国民を要求してゐるのです。かかる国民によつてのみ国家の進運は開拓されて行くのだといふことを、私は信じて疑ひません。(拍手)

兵を休め兵力を用ひるといふことは、兵法の最も大切なことであります。これが即ち明日の戦争に必勝を期し得るところの所以であります。

 国民はただ勤労するだけでは駄目で、自由時間には皇国の臣民として人格を陶冶しなくてはならない。体力の向上にも努めねばならない。国家のために最大の力を発揮するには、十分な休養が必要だと説く。
 水歩生「一ツ目小僧見参記」は東京帝大五月祭の見学記。この年に医学部標本室が竣工したので、有名人の脳や玉ノ井バラバラ事件の骨、襲撃された浜口首相の大腸の一部など、珍奇な標本が展示された。一ツ目小僧といふのも特殊な人間の標本。ここでは高橋お伝の一部が公開されたといふのはデマといふことになってゐる。
 目次にはないが「和楽路会の活躍」といふ小さい記事も見逃せない。わらぢ、と読む。日本精神の顕揚を目的として昭和10年に設立。菅笠と草鞋で徒歩旅行をなし、講演会を開催する。頭山翁が顧問総長、末永節が顧問。
 事業として「宮城前通行の際の礼拝提唱」「毎朝洗面後宮城遥拝提唱」「天長節の奉祝徹底提唱」が挙げられてゐる。草鞋での徒歩旅行といひ、身体と精神が結びついた運動が注目される。写真を見ると、なるほど菅笠の集団で、幟のやうなものを掲げて歩いてゐる。