大野慎「わが天皇は絶対唯一の至聖至高至尊であらせられる」

 『理想なき民は亡ぶ』は大野慎著、大新社、昭和16年9月発行。大野は水戸学の本が多いが、この書は一風変はった日本通史。第四章の「日本歴史の修正時代」を読むと一目瞭然。記紀以外の古記録、現在偽史とされるものを取り上げてゐる。具体的には磯原文献、宮下文書、九鬼文書。古代にはスメラミコトが世界を統治し、各国の民(五色人)は服属してゐたと説くもの。しかしいつしか彼らは歴史を忘れ、めいめい勝手に神をまつるやうになってしまった。

太古の昔における皇国は、まさに世界の中心であり、まさに大東亜共栄圏の盟主であり、全世界に君臨して、スメラミコトの霊威を光被してゐたのであつた。 

 ミュウ大陸の一部も日本にあり、シャカもモーセ天孫族から分かれた一族。神代文字もたくさん証拠があるのだと論じる。日本は世界を指導する理由があり、優越する立場なのだとする。

 大野は、このことを認識しない日本精神論者たちにも批判の矢を向ける。エチオピアがイタリアに攻められたとき、エチオピアも日本と同じ皇統連綿の国だからと愛国陣営が同情したが、それは間違ってゐる。 

エチオピヤ帝国なるものは皇統連綿たる日東帝国と同然に考ふるべきものであつたか否か。

 否、否。

 わが天皇は、吹けば飛ぶやうな皇帝や王様やキング等と比較すべきに非ざる絶対唯一の至聖至高至尊であらせられ、あらゆる言葉によつても言ひ現し得ない神聖なる現人神であるのである。

  

   中山忠直の『我が日本学』、小谷部全一郎の『日本及び日本国民の起源』、石川三四郎の『古事記神話の新研究』いづれにも誤謬があるといふ。これらは高天原が外国にあると説いたり、日本人はユダヤ十二支族の末裔だと言ったりするが、これらは誤った国体観によるもので、欧米崇拝の考へを捨て去らねばならないと説く。

 

われわれは外国人を拝む民族ではなく、世界人から拝まれる民族であることを自覚し、拝まれるべき人格と力とを養ふにつとめなければならぬと思ふ。