佐伯郁郎「詩は燃焼した感情の頂点をとらへたものである」

『みくにの華』は大日本傷痍軍人会発行の機関誌。月1回発行の12頁建て。傷痍軍人へのお知らせや相談欄などがあり、桜井忠温が読み物を寄せたりしてゐる。

 文苑のページでは俳句と短歌と詩を募ってゐる。選者はそれぞれ水原秋桜子、杉浦翠子、佐伯郁郎

 大家と肩を並べた佐伯は

参考に私の近作を掲げます。内容から自然に形式が整つて行くやうに表現することです。 

 と、「花信」を載せるなど、力を入れてゐる。山崎部隊長への自作の詩「われら眦を決して起つ」では「心せよ米英よ」とも呼びかける。同欄に佐伯の詩集の紹介もされ、他の選者にはこのやうなことはない。

詩は文章を区切つた短文ではない燃焼した感情の頂点をとらへたものである。歌の対象をはつきりと捉へて、それに的確な表現を与へる修錬を積むことである。 

 と詩魂を述べる。アドバイスでは形式に流れないこと、想を練ることを強調してゐる。投稿では小笠原菜々子の作品を評価。その「叉銃線」には「ヒマワリが正午を肯定し」「銃剣の重みもなつかしい昨日の忘れがたみ」などの巧みな表現がみられる。

 ともに他人の文を読むことは同じでも、検閲はマイナス評価をつけるが詩の選者なら良い作品を取り上げる。燃焼した感情の頂点といふのも、傷痍軍人に期待するものがあったのではなからうか。

 

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