海老塚利明「心胆を寒からしめるような記事でいっぱい埋まっている」

 『経営攪乱の防衛策 企業の裏街道を行く』は海老塚利明著、昭和39年11月発行。版元の白桃書房は神保町で会社経営に関する本を出版。「マネジメント・ライブラリー」シリーズで『会社はなぜつぶれるか 経営破綻のはなし』を皮切りに『経営昆虫記 人と虫との経営くらべ』『あなたは疲れている 作業量と疲労』などを世に出した。
『経営攪乱の防衛策』は64冊目。会社に損害を与へる産業スパイ、総会屋、組合活動家を取り上げ、その実態と対処法を述べる。

この種のきわどい問題は、なかなか実証的なデータを公然と収集しにくいということと、舌禍ないし筆禍によって、いつかわが身にふりかかるであろう危険を極度に警戒し、最初から意識的な敬遠策をとったとしか考えられない。

 と、研究が進んでゐないことを指摘。しかし彼らを敬遠すると最悪の場合、経営破綻にもなりかねないと警鐘を鳴らす。
 産業スパイ編では社内報や工場案内の注意点、対情報用科学器材(シュレッダー)などに触れ、情報管理の重要性を強調する。最後は結局社員に不満があり情報が洩れるので、愛社精神が大事だとし、労務管理のためのカウンセラーや人事相談室について紹介してゐる。
 総会屋編では実例や行動パターンを紹介。「みやげ」の有無をまとめた表では、会社から株主への手土産として、品名を列挙。味の素とか便箋セット、最中、ドラ焼きなどを用意してゐるのだといふ。
 総会屋の出版物も薄いものから雑誌状のものまで多岐にわたると解説。

これらの新聞・雑誌は、会社側の心胆を寒からしめるような記事でいっぱい埋まっている(略)総務部のおえらがたは、そのなかから、総会当日予想される質問をいくつか選択し、チエをしぼってその答弁を用意する。

 「企業防衛の最前線」で取り上げるのは、受付係。「面会強要者に対しても、臨機応変の接待技術が必要になる」。著者は人相や行動でかういふ人は要注意だとアドバイスしてゐる。わかりやすい例としては次のやうな描写がある。

衆議院八回、参議院四回、合計十二回の国会議員選挙に出馬、ゴールインはまだというC級総会屋K氏のごときは、一見〝人生劇場〟の壮士風。ケシズミ色の羽織、むらさきのハカマ、あい染めの着物に白タビという異様ないでたちを売り物にかっ歩している

 昭和30年代は壮士風もゐたらしい。
 
 組合活動家の章では、総評が設立した出版社、新週刊社と『新週刊』を取り上げる。発行部数や経費にも触れる。

経営批判はお手のものだが、いざ実際に自分たちが会社を運営する段になると、とかくまずい結果になりやすいようだ。

 裏表紙には「ほかの方々にも読ませてみたいとお思いでしたら、(略)この本をお貸し下さるようお願いします」とある。「買ってください」でないところが謙虚だ。