『愚心の告白』感想

 夢中で新刊を読んだのは久しぶり。面白かった。この本のやうに、熱心な活動家が客観的に右翼を描いたものはさうない。

 『愚心の告白 〜我が国家主義運動の事績〜』は平成28年1月、風詠社発行・星雲社発売。小松憲一著。
 昭和の終はり、北海道出身の著者が上京し、赤尾敏の愛国党で過ごした日々をつづった回顧録三島由紀夫の自決をきっかけにして右翼に興味を持ち、自衛隊入隊と除隊、愛国党へと進む。赤尾との死別、党の分裂後の様子もある。
 三島についての世間・自衛隊・党内での評価がよく分かる。これは二・二六事件解釈の違ひにも関はってくる。
 書き方は分かりやすく、注釈がなくても気にならない。この時点ではかう思ってゐた、今ではかう、など、思想の変遷が明瞭に描かれてゐる。党本部での生活や用語、党員それぞれの性格や相性、本部と地方支部との関係などは内部の人にしか分からないことばかりだ。
 愛国新聞の論文がそのまま掲載されてゐて、その文章は激しい。赤尾敏は演説が終はると好々爺だったといふが、愛国党の党員も、街宣車の上と下では表情が違ったといふのも面白い。訴へにも実は党員間で意見が分かれるものもあり、微妙なところもあったといふ。
 右翼と機動隊、警察、左翼との関係も、当時と今では違ふ。
 いはゆる新右翼批判もなかなか読めない。  
 右翼史はもちろん、現代史の貴重な証言だ。


 以下は蛇足。表紙の上部に余白ができてゐたり、写真が暗く見えたりするのはどうにかならなかったのだらうか。表紙写真の説明もない。巻頭写真ページと章はじめ×1、章はじめと本文中に同じ写真×2で3種類重複。なるべく違ふ写真を載せてほしかった。
 帯に「総裁の側近だった」とあるが、最後の弟子とか本部員のほうがより良い。
 赤尾の略歴は訃報のところに出てくるが、亡くなって四半世紀以上、しかも91歳。もっとはじめの方にしても良い。
 多摩霊園は多磨霊園。循の会は楯の会建国記念日建国記念の日。勢力的は精力的。

 書名は、「赤尾敏との日々」とか「内側から見た愛国党」とかではない。あくまで著者の物語を表すものになってゐて、私は良いと思った。