千葉亀雄の化け込み記者盛衰論

 昭和5年5月10日発行の『週刊婦女新聞』(婦女新聞社)は通算1561号で、明治33年の創刊から30年の記念号。新聞ではなく雑誌形態で144ページに及んでゐる。
 広告は婦女新聞社関係だけではなく、婦女界、婦人之友、婦人世界なども並ぶ。与謝野晶子平塚雷鳥、神近市子など、当時有名な女性が寄稿して居る。
 東京日日新聞学芸部長、千葉亀雄の「或る日の対話」は問答体の婦人記者論。「なぜ婦人記者が活躍せぬか」から始まってゐる。婦人記者の黎明期には、今で言ふ潜入記、ルポが流行った。身分を隠したので、「化け込み記事」「化け込み記者」と言った。

面白く可笑して暴露して関係した人間達の醜悪さや弱点を遠慮なくつゝこんだ。そんな事は女性でなくては出来やしませんやね。だから、興味記事としては、百パーセントの値打ちがありましたが、そんなセンセイシヨンは、趣味としてはあまり感心したものではありませんよ。

 英米の婦人記者でも化け込みをするが、娼妓の世界に紛れ込んだり、炭鉱労働者の家庭に入ったり、社会問題にぶつかってゆく。しかし日本には「そんな方面の化け込みはない」。
 化けこみや探訪をした婦人記者の活躍は、過去の方が盛んだったといふ。

「そこが六づかしいのです。活躍の意味は複雑ですが、日本の婦人記者の活躍から言へば過去の方に、却つて知名な婦人記者が多かつたですね。理窟から言へば逆しまで、女性の婦人職業の進出が、現代こそ比べにならぬほど進んでるのに、婦人記者の出足が、却つて鈍つて行くのは変ですよ」

 女性の社会進出は進んだのに、婦人記者は以前よりも振るはないといふ。この問答では、女性は男性よりも疲れやすく、感情的で、知識も無いと、欠点を論ってゐる。しかし今後は女性の読者も多くなるから、婦人記者も必要になると論じてゐる。

 他には芳垣青天の描いた漫画、「職業婦人三十態」が面白い。ショップガール、声楽家、モデル、女教員、看護婦、産婆、切符売、手芸家、ウエートレス、女医、令嬢売子、記者、女工、マネキン、派出婦、飛行家、踊り子、エレベーターガール、ビラ配り、タイピスト、演芸師匠、ガソリンガール、美容家、女優、自動車車掌、事務員、交換手、救世軍士官、テケツ(モギリ)、画家で30種。
 女医と女教員は眼鏡で同じ格好。ショップガールと事務員は暇さう。肌を露出するモデルは、蚊を追払ってほしいといふ。タイピストは指の使ひ過ぎで蛙みたいになってゐる。救世軍士官は袴にハイヒールで手には変はった提灯。