横野晋作「真の日本人の健康は神饌の真食に依て増強される」

 正食運動では桜沢如一以外にも、熱狂的な人がゐた。
 『正食』は雑誌のやうな小冊子で、昭和17年8月発行。発行所は正食報国団で、著者兼発行人は食養会理事の横野晋作。はじめに日本人の不健康ぶりに痛憤してゐるのだが、書き振りが矯激だ。結核を取り上げては

マレーや蘭印での捕虜の何十倍の日本人が黴菌といふ弱い小さな虫に捕虜になつてゐるのです、何と情けない恥かしいことではありませんか。

 盲腸では

昔は聞いたことも無つた盲腸炎などといふ病気が続々発生して、切腹の心得の無い腑ぬけ共を押へつけて腹を切つてやることが流行り出しました。

 西洋流の生活で、虫歯も眼鏡も多くなってきた。丙丁種が増加し、これでは戦争で戦ふことも、子孫を戦場に送り出すことも覚束ない。ぜひとも正しい食事をして、健康になってもらはねばならない。
 それでは正しい食事はどういふものかといふに、それは他でもない、神饌が理想の食事である。

神饌に用ひられる物が、神の分霊たる吾々に対する標準食品で、そういふものを戴いてゐれば神様との生命のつながりが何時も強められて、神明の御加護を受くること疑ひはありません。

 神饌には肉も人工的な砂糖も使はず、しかもその土地で取れたものをお供へする。それらを直会で人間がいただけば十分なのだといふ。

それだのに神棚にお供への出来ない白砂糖や甘いお菓子、林檎やバナナ、すき焼、ビフテキ、トンカツなどを神棚に背を向けて勝手に食べたり、御神酒には使へぬ焼酎やビール、牛乳、コーヒ、紅茶などを呑むから気枯れて病気になるのです。

 果物くらゐは神饌にあげてもよいと思ふが、それもよくないと徹底してゐる。食事は神代の昔から朝夕2回できたので、現代人もそれに倣ふべきだ。米は玄米がよい。徳川の旗本は白米を食ふやうになったので、ご一新のときに玄米、雑穀の田舎侍に負けた。

神様が折角完全なものをお授け下さつてゐるのに、必ず戦に負けるといふ縁起の悪い白米にして食ふとは何たることでせう。

 「いただきます」「ごちそうさま」といふのも神様への挨拶で、日本精神の特色である。
 最後に、大きめの活字で次のやうに述べて締めくくってゐる。

 全国の皆さん、今は肇国の精神に還へる時です。一家挙って強健でなければなりません。真の日本人の健康は神饌の真食に依て増強されることを身を以て体験して下さい。そして神代以来の吾々の祖先の遺風に従ひ三度の食を二度に改め、一食分を国家の御用に献納しやうではありませんか。

 真食に「なほらひ」とルビをふってゐる。他では直食をなほらひと訓ませてゐる。
 裏表紙でも、三度の飯を二度にすれば食事代が浮き、医薬代が不要になり、生産能力が向上すると謳ひ、「これではじめて百年戦争も楽々とやり遂げ得る」と大書する。