時雨会でデモを主唱した児玉誉士夫

 『黒の灯り―敗戦日本、死ねと言われた男たち』(青柳修道、日本ブックマネジメント株式会社、平成2年12月)読む。著者は気功や東洋医学の先生で、近影はいかにも厳めしい。著書も健康法についてのものばかりだが、本書は実名をあげて戦後日本を描いた小説。大野明運輸大臣が推薦の辞を寄せてゐるのは、父の大野伴睦が出てくるから。
 「プロローグ」には

〝事実は小説よりも奇なり〟ということもある。真実を暴くというよりは、小説の中に真実を拾うのである。それは、先人の偉大さを忍ぶよすがともなり、そのような素晴らしい日本人たちが存在したことを誇りに思うからである。

 とある。
 主人公は80歳の夢想庵主人こと田島剛三で、近代史を勉強してゐる、孫娘の里奈に答へる形で話が進む。核になるのが日本再建同志会・時雨会の史料。田島らは、芭蕉の句の一部を暗号にして、各実行部隊に割り振ってゐた。「閑さや」は右翼・暴力団関係」、「ゆめのあと」は在郷軍人会。
 「定例句会」の二次会に集合したのが大野伴睦笹川良一、葛生能久、児玉誉士夫昭和天皇の戦争責任を回避させるために、児玉が提案する。

「少し派手な方法ですが、昔の武士たちの切腹の儀式と同じ白無垢の装束を着させた二十人ほどの若者たちをG・H・Qの前に座り込ませて。〝もし天皇に戦争責任がかかるような場合、われわれはこの場でハラキリをする。おそらく日本国民のすべてがそれに続くか、一人一人占領軍の兵士と刺し違えても天皇陛下をお護りします〟というプラカードを持たせます。さらに、アメリカ軍部隊が進駐している周りに、その駐屯隊の倍くらいの復員軍人や在郷軍人を集めて同じプラカードを持たせてデモを行わせます。彼らはこれを見れば、天皇陛下に対する日本人の真意を知るでしょう。(後略)」

 笹川と葛生はあまり登場しないが、児玉はその後も下山事件朝鮮戦争で暗躍する。