「けしからんことだ」‐広告も検閲しろといふ三角寛

 文学者は皆検閲に反対してゐたのかといふとさうでもない。『月刊随筆 博浪沙』の昭和14年4月の号に三角寛が「検閲のこと」と題して書いてゐる。三角といへばサンカ小説の第一人者。
 三角は今迄一度も検閲に抵触したことがないさうで、出版社の方で勝手にびくびくしてゐるといふ。サンカの本で裸体画が載るときも、検閲に出したところ、お咎めなしだった。
 三角はなぜか、何が駄目で何が許可されるのか、知ってゐたやうだ。しかも、現行の検閲は不十分なので、もっと厳しくせよといふ。

役にもたゝないものなら、一作全部の削除を命じてほしい。作品は人であるから、編輯者を叱るのみでなく、執筆者のブラツクリストを作つて統制したらよからう。

 特に恋愛や任侠ものの不良小説は悪い影響があるから、さういふものを書く人のブラックリストを作って締め出さうといふ。

若し私が当局者であつたなら、もつとはつきりやるだらう。広告の検閲など、今の状態はあまりにもゆる過ぎる。きゝもどうもしない淋病の薬だの、およそ不正なことにばかり使用するルーデサツクなどの広告が、どかどかとのつてゐる。けしからんことだ。分けて婦人雑誌のインチキ広告はどうだ? 手にするさへいやな時がある。

 三角の執筆態度は「国民精神総動員などゝ漸く叫びだされる以前から、日本臣民である自分は、外国文学などの雑炊でない純然たる日本の文学といふことを考へてゐる」「人に読ませて悪い影響を与へるやうなものは全く書いてゐない」。
 検閲基準の自信もかういふ自負によるのかもしれない。