八八青年会に入った頭山翁と、繁盛する同邸前

 『度胸の一生』(昭和35年、非売品)は、憲政会所属の議員、高田良平の自伝。戦時中の頭山邸の様子が出てくる。
 戦時下、高田らは軍部の目を避けながら講和運動を進めるため、隠れ蓑となる団体として八八青年会を組織。88歳になっても健康でいようといふ穏健な主旨の団体で、これを名目に名士を訪問。講和運動に邁進した。初めの賛成者は安藤正純、高田、荒居庄三郎、生田茂、中島一十郎ら。小笠原長生、若槻礼次郎、原嘉道枢密院議長、荒木貞夫へと順調に入会者の輪を広げた。戦争反対、即時講和の意見が寄せられた。
 鳩山一郎も入会し、鳩山の父親時代から頭山と懇意だといふので、紹介状をもらって頭山邸を訪問した。見出しも本文も遠山と誤記してゐる。それに新内閣が組織されると親任式のあと一番に頭山邸に行って贈り物をするとか、全国府県知事や警視総監、警察署長も皆来訪するとか記されてゐる。
 

当日も同邸の門前は自動車、人力車を以て埋め、来訪者が多数つめ掛けて居り、翁に面会するには時間を限り先着順となり、恰も東大病院の受付の様な混雑を呈し、其れが為め同邸の門前には二軒の待合店までありて弁当茶菓子を販売して繁盛して居る有様であった。

 何時間かかるのかと不安だったが、話が通じてゐたと見えて、すぐに会ってくれることになった。床の間には、水引をかけた贈り物が山になってゐる、左右には書生と壮士風の男がずらり並んでゐる。
 安藤と高田が八八青年会の話をすると、翁の顔に失望の色が表れたので、本題の講和促進運動を説くと、すぐに筆を執って入会してくれた。ただ一言の発言は「しっかりやれ」といふことであった。