大隈重信「本じゃ、本じゃ」

 続き。突然休職を命じられた佐藤孝三郎が大隈重信のところに挨拶に行ったら、次のやうに慰めてくれた。 

 大隈侯に伺えば、「今度は気の毒だった。まあまあこういう時は、本じゃ、本じゃ、本に限るんじゃ。暇にまかせて読書が第一。寺内が総理になったが、あの小心の正直者が国家の大事に任じて一年ももつかね。すぐに神経衰弱で果てるだろう」と言わる。果して年余にて寺内氏長逝のことあり.公の怖るべき眼力は真に畏敬の至りであった。また「本じゃ、本じゃ」の言痛く身に沁みた。家に帰りてこれを語れば、子供等までが「本じゃ、本じゃ」と真似、当時は勿論後々までもこの語が家族の語り草となって皆一同に勉強した。

 本ぢゃ、本ぢゃ。